口臭の話
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 人を含めて動物には臭いがあります。フェロモンは有名ですが,人も皮膚や種々の出口からさまざまな物質分子を絶えず発散しています。人の臭気からは300余りの異なる化合物が検出されています。直ぐに分かる明らかなものは呼気とガス(おなら)です。口臭とこのガスについては,思い悩む人が多くいます。加えて日本人においては体臭症を思い悩む人も多いようです。生物学的に見るとこのガス(おなら)は毎日約0.5gほど腸内で産生されています。タンパク質の代謝の結果産生される,臭いのもとになる硫化水素やアンモニアが含まれています。口臭も揮発性の硫化物を含んでいるのです。社会的に容認できる程度の臭いは生物学的な臭いとして認知されています。フランス料理に使用されている珍味のトリュフはその臭いで豚がみつけます。このトリュフの臭いは面白いことに男性の腋下の汗に含まれるある種のホルモンと同じ構造をしています。豚は交尾の相手を見つけたと思い喜んでいるのですが,結果は期待外れのものであるわけです。一方,臭いを武器に使う動物もいます。スカンクです。アルコールと似た分子構造を持つチオールというガスを使います。この分子は,アルコールの酸素原子の代わりに硫黄が含まれています。かつてこの分子はメルカプタンと呼ばれていました。現在,呼気中の口臭原因物質で注目されているものにメチルメルカプタンと呼ばれるものがあります。

口臭の定義

 呼気とともに口腔より発生,発散される悪臭を口臭といいます。
 口臭があると思い,あるいは口臭があると悩んでいる病態を口臭症といいます。

口臭の原因と分類

  1. 生理的口臭:早朝時口臭,空腹時口臭,乳幼児のミルク臭,緊張時(ストレス性)口臭,女性の生理時口臭等。
  2. 病的口臭
    1) 局所的原因によるもの:多くは口腔内に原因のあるものをいう。口腔清掃の不徹底,唾液分泌量の低下,歯槽膿漏,開放性(未治療)のう蝕などが原因としてあげられる。口臭症の約6割が局所的な原因による口臭であるといわれています。
    2) 全身的原因によるもの:呼吸器疾患や消化器系の疾患,あるいは耳鼻科領域の疾患などが原因となっているものである。
  3. 食餌性口臭:食品,例えば発酵性食品。餃子,ラーメン,漬物,くさや,納豆等による一時的な口臭。あるいは,アルコール等の飲酒,喫煙が原因の口臭等がある。
  4. 心因性口臭:他覚的には臭わないのですが,本人のみが口臭の存在を強く訴えるものを心因性口臭といいます。

口臭の測定

 測定には口腔内の呼気を直接利用するものと,唾液を利用するものがあります。呼気を直接利用するものでは呼気中の臭い物質を直接測るのですから,呼気の採取後直ちに測定しなければなりません。唾液を使うものでは,その中に含まれる臭い物質を測定します。臭い物質としては,アンモニア,スカトール,インドール,アミン類,低級脂肪酸,各種硫化物,アルコール,アセトンなどがあります。スカトール,インドールは糞特有の臭気物質でありますが,微量では快香を放つといわれています。香料の原料になることもあります。アミン類としてはプトレッシンやカダベリン等があります。口臭の原因物質,精液の臭い,尿の臭い物質でもあります。単体では有毒物質であります。アセトンは糖尿病のときに血中にアセトン体が蓄積されて,呼気中にアセトン臭がするのです。このような物質のなかで現在注目されているのは,揮発性の硫化物です。硫化水素,メチルメルカプタン,ジメチルサルファイドなどがあります。

測定方法

  1. 官能試験法
  2. ガスクロマトグラフィーによる測定
  3. 半導体センサーによる測定
  4. ガス検知管による測定

口臭の予防と治療

 日本には人前でキスをする習慣はありません。ヨーロッパの一部の国や南米などでは日常の挨拶になっているところもあります。これらの国では口臭に関する関心は非常に高く。普段から口腔衛生習慣についてはレベルが高いようです。百年の恋も冷める口臭では困りものです。ハリウッドの映画俳優で口臭が原因で,女性のスターと共演を嫌がられた人もいます。口臭については,病的口臭に対して保健指導,健康教育,あるいは治療の意義があります。その原因別に,@全身的な治療が必要なもの。たとえば糖尿病によるアセトン臭であれば,糖尿病の治療が優先します。A局所的つまり口腔内に限局した原因であれば歯科治療が優先します。むし歯や歯周炎の治療,口腔衛生の改善などです。口腔衛生の改善というのは,歯磨きです。通常の歯磨きに加えて歯間ブラシの利用や,洗口剤の利用なども有効です。加えて,舌についている舌苔の掃除も口臭の予防・治療に効果的です。さらに,口腔粘膜に異常があるときにも口臭が発生します。

結 語

  1. 全身疾患のあるものは治療をうけ健康な状態を保つ努力をする。
  2. むし歯や歯周炎を治療する。歯周炎の治療は,口臭予防に効果的です。口臭の50%〜60%は,歯周炎が原因であるといわれています。
  3. 毎日のお口のお手入れ。歯磨きや舌磨きをする。舌苔の除去は近年口臭の治療に効果的であるという報告があります。
  4. 洗口剤の利用も効果がある。洗口剤自体の消臭効果は微弱ですが,歯の汚れが抑制されるので,結果として,口臭予防になります。
  5. 口腔粘膜の病気も口臭を発生する原因の一つである。
  6. 一人で思い悩まず,専門医に相談してみる。むし歯や歯周炎,口腔粘膜の異常が見つかることもあります。自分ひとりではなかなか気が付かないのが口臭です。普段から口腔内をきれいにする習慣を身につけ,口臭予防をしましょう。

参考文献

  1. スタンダード口腔保健学.学建書院,東京,(1999)
  2. 理化学辞典.岩波書店,東京,(1986)
  3. 生命科学のための有機化学.東京化学同人,東京,(1990)

(資料提供:小野澤 裕彦・助教授 明海大学歯学部口腔衛生学講座・〒350−0283・埼玉県坂戸市けやき台1−1)

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